優秀賞
第3回 看護・介護エピソードコンテスト『地域の一員として物申すばい!
~ホームホスピスが我が家になった三婆物語~』 樋口 千惠子さん

『こりゃ、一夜にして建ったばい!』『こげな、ちーさか家ば建てて!』『今時の若いもんは、挨拶にも来ん!私どんが若いときゃ饅頭の一つでも持って挨拶に行きよった!』とある日のホームホスピス“たんがくの家本家”居間から見える棟上げが終わったばかりの“たんがくの家お向かい”への苦情で花盛りの女子会の一コマ。
この女子会メンバーは、総胆管がん+認知症、自称にわか狭心症?+認知症、糖尿病+認知症の可愛いおばあちゃん三人づれ。この模様を聴いた私は、次の日、喜んでご所望の饅頭を持って非礼を詫びに行きました。『お隣で小さな家を建ててる樋口と言います。ここの理事長さんとそっくりです。ご挨拶が遅れたいへん、失礼なことをいたしました。これはせめてものお詫びに、久留米一おいしい饅頭を買ってきました。ご賞味ください。』と渡し、次の日、女子会に隣の非礼な樋口さんは、饅頭持って来られたか聞くと短期記憶に不安があります。『はーあ!知らん。あたしゃ食べとらん。他の人は知らんばってん!』とこうです。
たんがくの家は、がん末期や難病等の医療依存度の高い方々が、その方らしく心穏やかに暮らし、生き抜く生活の場として、ご家族や地域の方々の応援をいただきながら病院でもない、施設でもない第2の我が家として、開設しました。
たんがくの家では、“とも(伴・友・共)暮らし”をしているお仲間・ご家族、地域のみなさんと触れ合い『あーっ!あんたがおってよかった!』とお互いの存在を認め合い、お互いできることを交換し生きがいに変えるような仕組みづくりに取り組んでいます。
また、この地域の方々がなじみの地域でなじみのみなさんと安寧に今までの生活の延長ができ、『ここで年がとれる』『あんたがおってよかった』との思いを地域資源と位置づけ、地域の方々の様々な『ここで、生きる』を支援していくサービスとして『ホームホスピスたんがく村』整備計画(女子会話題の“たんがくの家お向かい”もその一環)を進めています。
この整備にあたって、地域の方々が自主的にどう、たんがく村を地域のために活かそうかと『たんがく村を育てる会』ができ、ワイワイガヤガヤ“我がこと”として話し合いがなされています。そして、ついに昨年、『学びの館たんがく楽館』(陶芸、絵手紙、お写経、おいしいコーヒーの淹れ方などの講座等)が開設しました。もちろん、女子会のみなさんも陶芸教室に参加されています。『わー!おばあちゃんの器の取っ手がねじってあっていいね!私も真似しよ!』と地域の方から声をかけられ上機嫌の女子会。『おばあちゃんに教えてもらったから、いいのができるよ。焼きあがるのが楽しみ。おばあちゃん!また来月、お会いしましょう。』とこんな会話が飛び交っています。
このように、地域の方がいつも出入りされ、地域の日常の雰囲気をなんとなく感じておられるのではと思われる女子会のみなさんは、自分たちが住んでいる家(たんがくの家本家)のお隣に非礼極まりない者がいる!と地域の一員として怒っておられたのです。まさにたんがくの家が我が家であり、そこに住む女子会のみなさんは、地域の一員なのです。そのことを地域で行われているであろう井戸端会議のような場で話に花が咲き、自分の居場所として、認知症があろうと我が家と思われ、地域のことを話題にされていることが、ケアする私どもにとっては、この上ない喜びでした。
たんがくの家は、日常の暮らしの連続の中で、その方らしく生き抜いていただく場です。この日の女子会は、当法人が目指す“地域とともにここで生きる”を具現化したものでした。
今後とも、お一人おひとりがその方らしく生き抜いていただくために地域のお力をいただきながら、日常の何気ないこんな一コマを五感で感じ、真摯にかつ、丁寧にその方の暮らしに活かしていくケアをしていきたいと考えています。

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