大賞
第4回 看護・介護エピソードコンテスト『もう一人のおばあちゃん』小山 祐加さん

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私が介護の仕事を始めたのは、今から15年前になります。まだ22歳の冬でした。

ホームヘルパー2級の資格を取り、田舎から都会の特別養護老人ホームに就職しました。
そこで私が配属されたのは、自立度の高めな高齢者が生活するフロアでした。
全くの介護初心者の私は、当然右も左も分からず、しばらく経っても満足に介助も出来ないただの鈍臭い使えない落ちこぼれへルパーでした。

『こんなんじゃ皆に嫌われるなあ』と落ち込んでばかりいた事を今でも覚えています。
そんな落ちこぼれヘルパーの私にいつも気をかけてくれていた利用者さんOさんがいました。

Oさんは90代の女性で、認知症はなく、ADLも比較的自立しており、性格はちょっとキツい感じで、あれこれズバズバと言ってのけるタイプの方でした。
私も当然、あれこれとダメ出しをして頂き、正直ちょっと苦手で、進んで関わりを持つことは自然と避けていました。

ある日、Oさんの入浴介助の担当になり、初めてまともに会話を交わす事になりました。
私が田舎から一人で出てきた事、お互いの家族や兄弟の事、好きな食べ物の話・・・たくさんお話をし、お互いの距離はこの日からぐっと近くなった気がしました。

『あんた、一人もんなんか?お父さんお母さんと離れて寂しいないんか?ご飯ちゃんと食べてるんか?』

と私の顔をじっと見つめたその目は未だ忘れていません。

その日を境に私はOさんと積極的に関わりを持つ様になり、気づけばOさんが大好きになっていました。
暇を見つけては散歩に出かけたり、一緒におやつを食べたり・・・

ある日の夕食時

『ちょっと、小山ちゃん!』
とデイルームから私を呼ぶ声が聞こえました。駆けつけるとOさんは

『私、今日は晩御飯いらん。せやからこれはあんたが食べなさい』

と全く手を付けていないタ食を差し出して来たのです。
一度は断りましたが

『食べ言うたら食べ!ほら!冷めるやんか!』

と声を荒げて言うので、上司に事情を話し、許可を得たのでOさんのテーブルに向かい合って座り、食事を頂きました。

『あんた一人なんやから、しっかり食べときなさい』

と目を細め、優しい笑顔で私にそう言ってくれました。
その優しい眼差しは、孫を見つめる優しいおばあちゃんの顔でした。

その後も度々『これ食べなさい』とお菓子やフルーツなどをくれました。

『あんたは一人暮らしやから』

といつも気遣いを見せてくれました。

私はそのお礼に小さな色紙にふくろうの絵とメッセージを書いてOさんにプレゼントしました。くだらない物なのに、すごく喜んで下さり、お部屋に飾ってくれました。

『そういやあんた、田舎には帰ってるんかい?』

と不意にOさんに尋ねられ、気づけば数ヶ月間帰省していない事に気づきました。

『お父さんもお母さんも心配してるやろに、いっぺん帰っといで』

とOさんに言われ、久しぶりに帰省する事にしました。両親があまりにも帰って来ない私を心配するほどでした。

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