選考委員特別賞
第11回 看護・介護エピソードコンテスト『僕らの仕事に救われて』
南平 茜さん

「お邪魔します。体調いかがですか」在宅医療の薬剤師さんがベッドの脇まで来て主人に話しかけた。主人は腹水で膨らんだお腹を苦しそうに傾けて「病院よりは居心地いいよ」と笑顔を向けた。先天性心疾患からくる腎不全。余命は年内と宣告を受け、夫婦で話し合い在宅医療を選んだ。初めてのことで私は覚えることがたくさんあり必死だった。点滴のルート交換や足浴、減塩食を作り、間違えないよう薬を飲ませる。選んだこととは言え利尿薬で2時間毎に起きる主人の手を引いて点滴棒を倒さないようトイレに向かうたびに体力、精神力の勝負だと思っていた。

体重増加したら即入院。今日はそう脅されて挑んだ病院の日だった。体重は増加していたが本人の強い意志に根負けしたのか主治医は帰ることを許し、次回の診察の期間を短く設定した。
「よかったよ。無事に帰れた家だから」

薬剤師さんに笑いかける主人は誇らしげだった。
「僕らも処方箋来い!来い!ってFAXの前でずっと待ってたんですよ!で、キター!やったぁ!って」と茶目っ気たっぷりに話してくれる姿に3人とも笑顔になった。

袋がパンパンになるほど大量の薬が処方されている。1回13錠もの薬を飲まねばならない。

間違えずに、完璧に、頑張らないと彼の命はもたない。凄いプレッシャーのなか、それを一身に背負っていた。
「お薬カレンダーってのがあるんですよ」

薬剤師さんはウォールポケットのようなものをガサッと持ち上げた。

朝昼夕にポケットが分かれており、飲み忘れや飲み間違いが明らかに目で分かるというものだった。
「使いますか?」と聞かれ、
「ありがとうございます!」と受け取った。

壁に取り付けて薬を分けようとすると
「あー、ダメダメ!」と声をかけられた。

びっくりしていると薬剤師さんはこう続けた。
「これも僕らの仕事ですから。奥さんは向こう」

ベッドの主人のほうを見た。主人はこちらを見ている。
「ゆっくりお話してあげてください。やっておきますから」

ぶわっと涙がこみ上げてきた。

がんばらなくちゃ、頑張るのは当たり前、と思っていた。頼るのができなくなっていたことにこのとき初めて気がついた。そして在宅医療の現場のプロはそれをきちんと知って見抜いておられたことに感動した。

ベッドに座ると
「いつもありがとうね」と彼が言った。
「いつも無理させてごめんね」

2人で選んだ道だったのにいつのまにか1人で頑張っていたのだと猛烈に反省して涙が出た。
「わたしこそごめんね」

彼を無力にしていたのは私だった。

それからいっぱい、いっぱい話した。

お薬カレンダーが埋まるまで。

僕らの仕事に救われたのは私の心でした。

薬剤師さん。ありがとう。