選考委員特別賞
第2回 看護・介護エピソードコンテスト『きみえさんちものがたり』 三上 薫さん

3/3

突然のお話になんと返事をしていいのかわかりませんでしたが、とてもありがたいお話でした。これ以上ないくらい光栄なお話です。その場では「先生に相談してみていいですか?」と返事をして、早速村上先生に相談しました。すると「すごい話だね。家を譲ってくれるなんてそうある話ではないし、スタッフたちがきみえさんやご家族様と信頼関係があった結果だね」と喜び、快諾してくれました。その後はとんとん拍子に話が進み、事務所として使用させていただくことになりました。
きみえさんちは、築50年以上になります。少し直す場所はありましたが、きみえさんのものがたりを語り継いでいきたいという皆の想いは同じでした。床を数か所直したほかは、押入れの扉を取って棚にしたり、カーペットを敷く程度の事しかせず、きみえさんが住んでいた時とほぼ変わっていません。旦那様の写真ときみえさんの写真を並べ、賞状もそのままにしています。少し遅れ気味の壁掛け時計もそのまま使用しています。

お看取りとしての関わりは、きみえさんが初めてではありません。その方その方の想いがあり、その想いに寄り添い、穏やかに過ごす事が出来るようにすることが、ケアに関わる方全員に共通することだと思っています。
お看取りするときには、いつもこう思います。我々スタッフが行ってきたケアで本当に満足していただけたのか。もっと出来る事はなかったか。ご家族様の支援もできていたか。介護職員の自己満足になっていないか……。
「~していた」、「~思って」というのは、ただの自己満足です。本当のケアにはなっていないと思います。100%の完璧なケアは今後も限りなく難しいと感じていますが、「ささえるさんでよかった」と思っていただけるようなケアを続けていけたらと思います。

今年の2月で、きみえさんの一周忌でした。1年が過ぎるのがこんなに早いのかと思い知らされた期間でした。現在勤務しているスタッフの中には、きみえさんが亡くなった後から採用になったスタッフもいます。事務所にかかっているきみえさん写真を見ながら、「私もお会いしたかったなあ」と残念そうに言います。きみえさんには、本当に教えていただいたことも多く、癒されたことも多かったです。
きみえさんの生きてきたこの家で、今後出会えるご利用者様にもきみえさんの思いを、そして、きみえさんのものがたりを語り継いでいきたいと思います。

  • 広報誌オレンジクロス
  • 研究・プロジェクト
  • 賛助会員募集について
  • Facebookもチェック