優秀賞
第8回 看護・介護エピソードコンテスト『祖母の応援団』 犬塚 千尋さん

認知症の祖父を介護している祖母が洗濯機のそばで座り込んでいました。

「またやられちゃった、これで八回目、ガッカリ」

見ると洗濯機の中に丸いかたまりがあります。

「紙パンツだ」

「今日は新しいパンツまで5枚も入れたから重くて取り出すこともできないよ、助けて」のSOSです。

水を吸って重いパンツをバケツに取り出して庭の石の上に干しておくと三日くらいでゴミに出せるくらいに軽くなります。

一緒に洗濯した衣服は紙クズがついて使い物になりません。

「洗濯機を見ると投げ込んで、スイッチを押してしまうから、困るよ、本当に疲れる」言葉で注意すると

「わかった」

と返事はしてもその場だけでまた同じことを繰り返します。

「何かいい方法はないかね」

祖母はよく僕に相談してきます。どうすればいいかこれまでも考えてみましたがよい考えが浮かばずその場が過ぎれば

「まあ仕方ない」

と流していました。

しかし、今日の祖母の疲れた顔と重いパンツのかたまりを見ると何とかしなければと思いました。

祖父にわかってもらうことは無理です。汚れたパンツは洗濯すればまた使えると思っているのです。パンツが使い捨てとは知りません。祖父の時代には使い捨てはなかったと思います。だから汚れたから捨てることは考えられないのです。

紙パンツを入れても洗濯機が動かなければいいと気づいたので祖母に

「面倒でも毎回、洗濯機のコンセントを抜いて使うときに差すようにして」

と言いました。コンセントは外から見えないように洗濯機の下に押し込むように伝えました。

それからしばらくして祖母にその後のことを聞いてみました。

パンツを入れてスイッチを押しても洗濯機が回らないと

「壊れているぞ、修理を頼まないと」

と言ってくるので今のところ成功しているようです。

「一番の困りごとがなくなって気持ちが楽になった」

祖母は少しだけ元気になりました。

次々に困りごとが出てきます。

今度は二人でお風呂に入り、祖母が先に出ると風呂場にあるスイッチを押してしまうというのです。

「追い焚きします」

というアナウンスが聞こえるので

「どうしたの」

「これから風呂に入るから、温かくしないと」

「もう、出るでしょう」

「まだ入ってない」

ちぐはぐな会話になります。

どうしたらいいかね、祖母からの相談です。

またまた考えてしまいました。いい案は浮かびません。

ある時風呂に入ってセンサーのボタンを見ていてひらめきました。

「そうだ、ボタンが見えるから押したくなるのだ」

ボタンの場所を箱でふさいで見えなくしてみよう。

このアイディアも一応、成功しました。

しかし

「この箱は何だ」

とはがしてしまいました。

別の方法を考えなければなりません。

このように祖母からのSOSを受けて考えるのが僕の役割になりました。

高齢の祖父母は二人で山の中で暮らしています。

認知症が進む祖父を祖母が介護しています。離れて住む僕たち家族は介護する祖母の助けになりたいと思っています。

認知症になっても穏やかで明るい祖父と、おかしな出来事を泣き笑いしながら、介護する祖母をリスペクトしています。

僕はまだ中学生でやれることはありませんが、認知症の祖父を介護する祖母の応援団の一人として何かできることはないかと考えたいと思っています。

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