選考委員特別賞
第9回 看護・介護エピソードコンテスト『リハパンを履いてみたら』
沖田 千絵子さん

今年2月のある日、リハパンを24時間履いて過ごしてみた。

リハパンというのはリハビリパンツの略称で、パンツ型の介護用紙おむつのことをいう。私がなぜリハパンを履くことになったかというと、初任者研修で「リハパンを履いて感想を書く」という課題が出されたからである。

体験用のリハパンが配付されたとき、クラスメートのなかには、初めて手にしたリハパンを珍しそうに眺める人もいた。2カ月前であれば私も同じ反応を示したかもしれないが、研修が始まるより先に介護職に就いていたので「あ、いつものだ」と、懐かしい相手に再会したかのように呟いていた。

リハパン配布後、講師から、リハパンを履くか履かないかは個々の判断に委ねるという説明があった。履きたくなければムリに履かなくてもよく、履けるのであれば履く。履く場合の条件も個々に委ねられ、何時間も履きたければ履いてよく、すぐ脱ぎたければ脱いでよく、排泄も、してもしなくてもどちらでもいいという。ただ、どんな体験をしても、必ずその選択をした理由と感想を200字程度に書くようにとのことだった。

好奇心旺盛な私はワクワクした。課題を持ち帰るとさっそく、いつ体験しようか、何時間体験しようかと計画を立てた。ところが、途中でふと、自分がリハパンの耐久性を知らないことに気がついた。日々、利用者さんのトイレ介助でリハパンに触れていたものの、上げ下げの動作ばかりに気を取られ、リハパンがどれくらい丈夫か、履き心地はどうかという点にまで意識が向いていなかった。最初の計画では、仕事の日にリハパンを履いて行くつもりだったが、仕事中に破れてしまっては困ると思い、休日前の晩から丸1日履いて過ごすことにした。

2月15日の夜、いよいよ計画を実行した。22時30分頃に風呂に入ったあとリハパンを手に取った。両手で上端を持って開き、まずは右足をするりと通してみる。「おぉ」と思わず感動の声が漏れた。続いて左足を通し、お尻までサッと上げる。肌触りはサラサラで、想像していたよりもはるかに履き心地がいいと感じた。ただ、私には股上が深すぎて、胃のあたりに上端が当たって苦しかったため、少し折り曲げて履くことにした。

リハパンを履いたあとは、いつも着ているパジャマを着て就寝した。布団に入って感じたのは、普段履いているパンツよりもリハパンのほうが暖かいということ。この晩の気温は約1℃で前の晩より低かったが、お尻が暖かいためかアッという間に寝ついてしまった。

翌朝は8時頃に起床。「よく眠れたなぁ」とお尻をさすりながら、リハパンを履いてから初めての用足しのためにトイレへ行く。寝相が悪いのでリハパンが傷んでいるかと心配したが、傷やほころびは見られなかった。便座に腰かけて足元まで下がったリハパンをまじまじと見ると、素材が紙だけに形が付きやすいようで、お尻の形になっている。「こんな形なのか」と思わず笑みがこぼれた。

午前10時過ぎにリハパンを履いて外出した。目的は大型スーパー巡り。行き先をスーパーに決めた理由は、もしも途中リハパンが破れても、衣料品売り場でパンツを調達できるからだ。リハパンが持つだろうか……とソワソワしながら20分ほど自転車をこぎ、1軒目のスーパーに到着した。真っ先にトイレに向かいリハパンを確認すると、朝と同じく傷もほころびもなかった。

リハパンは思った以上に丈夫で、しかも快適だった。2軒目、3軒目とスーパーをまわるうちにリハパンを履いていることを忘れてしまい、2時間ほど自転車で走り回って帰宅し、トイレに入ったときに、そういえばリハパン履いてたんだっけ、と思い出したほどだった。

夜22時過ぎには体験のクライマックスを迎え、入浴前にリハパンを履いたまま排尿してみた。尿が吸収されるまでの感触が気持ち悪かったので、排尿するなら尿取りパッドを併用したほうがいいと思った。数分待って尿を含んだリハパンを脱ぎ、ビニール袋に入れて「ありがとね」と感謝を述べ、丸1日お世話になったリハパンとさよならした。

この体験から私が感じたのは、リハパンは丈夫で便利なものだということ。そして、リハパンを履くのは恥ずかしいことではないとも思った。

課題をもらったとき、私は講師の言葉が引っかかっていた。

「リハパンを履くことの恥ずかしさを知ってください」

というようなことを言っていたのだ。“リハパンイコール恥ずかしいもの”と決めつけているようでモヤモヤした。排泄への配慮は大事だが、そうした過剰な気遣いが逆に恥ずかしさを生み出しているように思えた。

もっと気楽に「便利だからリハパンを使おう」ぐらいに考えていいのではないか。また、リハパンを介護用品と限定せずに、非常時のアイテムとして活用するのもいいのではないだろうか。

おりしも私がリハパン体験をした3週間ほど前、大寒波による大雪で自動車が何時間も立ち往生したという報道があった。そのとき私が思ったのは、寒さや食事対策もさることながら、トイレに困っただろうなということ。リハパン体験中にそのニュースが頭に浮かび、そういうときにリハパンを使えばいいのに、と思った。

たとえば、大雪のときに自動車で移動しなければならないなら、事前にリハパンを履いておき、替えも用意しておく。リハパンなら車中で簡単に履き替えられるし、汚れたパンツはビニールに入れて閉じれば匂いも気にならない。

それ以外にも、体調を崩してトイレに行けないときに備えて自宅にリハパンや尿取りパッドを用意しておいたり、非常用持出袋に入れておいたりするのもいいと思う。

私は今後も、たまにリハパンを履いてみようと思っている。“リハパンは誰もが気軽に使える便利なもの”ということを、自らの行動で伝えたいから。

そんな小さな一歩が、介護を身近に思えるきっかけになることを願って――。

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