選考委員特別賞
第9回 看護・介護エピソードコンテスト『ありがとう』
中田 汐俐さん

私は中学の間ずっと友達にうそをついてきたことがある。

私は毎日のように点呼時刻8時半ぎりぎりに教室に入る。毎回遅刻ギリギリになると友達から「なんで今日も遅いの?」と聞かれる。そのたびに「朝が弱いから」と適当に答えている。しかし、正直もう、その質問はしてほしくない。聞き飽きたということもあるが「朝が弱いから」というのは真っ赤な嘘だからだ。私には82歳のおばあちゃんがいる。78歳の時、腰を悪くしてから誰かの手がないと過ごせない状態になった。朝起きたら起き上がらせるのも私、トイレに行かせるのも私、お漏らしをしてしまった時の処理も私。赤ちゃんのおむつ替えですら少し抵抗感があるのに年寄りのおばさんのおむつ替えは赤ちゃんの何倍もつらい。私には、2個上の姉と5個下の妹がいるが姉は受験勉強でおばあちゃんのことなんかかまう時間がない。かつ妹には私のようなつらい思いをさせたくない。お母さん、お父さんは平日、朝早くから仕事でおばあちゃんに目を向けることすらできない。だから、祝日は介護という面では母とできるので楽しい。しかし、平日は地獄だ。登校時間が遅いのも、下校時間が早いのもおばあちゃんの介護のためだ。こんなつらい思いを抱えてきた私は中学の最後の学年末試験が終わった時よくわからない解放感を初めて味わった。確かにテストが終わると解放感は誰しもが味わうだろう。しかし、今回私が味わった解放感はいつもとは違っていた。そして帰り道、友達にこのつらさを爆発させてしまったのだ。

「毎日、朝起きたらおばあちゃんのベッドはおしっこまみれ、そのシーツを変えてから私の朝が始まる。次におばあちゃんをトイレに行かせ床に垂れてしまったおしっこを拭く。この作業が終了してからようやく私の朝の身支度ができる。みんなと同じような朝を過ごすことが夢なの」友達はいきなり私にこのような言葉を言われ焦っていたがすぐに返事をしてくれた。「私の周りにはおばあちゃんと一緒に住んでいる人がいないからわからない。だけど、どれだけあなたが大変なのかは伝わった。テレビでよく見るヤングケアラーがこんなにも身近にいるとは思わなかったよ。」私は、ヤングケアラーまではいかないかもしれないが「確かに若いのによくやっている私」と心の中で初めて思った。

しかし、こんなにつらいのに無理しているのには理由がある。私のおばあちゃんは落ち込んでいるとき励ましてくれるし、介護をしたら最後に必ず「ありがとう」と言ってくれる。

学校でつらいことがあってもおばあちゃんの励ましや感謝の言葉にいつも救われている。介護といわれると大変そう・辛そうなどと思う人も多いと思うが介護をしているのには人それぞれの理由がある。介護という言葉にマイナスなイメージを持つだけではなく介護人の気持ちを考えて心の支えをするのはどうだろうか。

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