講評
第6回 看護・介護エピソードコンテスト[講評]川名選考委員長

今回のコンテストには、全国から140件以上の応募があり、過去最高を更新しました。第6回目を迎え、コンテストの存在がだいぶ定着してきたのではないかと、喜んでいます。最終審査に残った30作品の中には、外国人介護福祉士の2人の作品がありました。障害者福祉の現場や、障害当事者からの作品もあり、内容が多様だったことも特徴です。力作が多く、甲乙つけ難く、選考委員の中でも意見が割れ、かつてない白熱した議論となりました。

見たり聞いたりしたことを記事にして読んでいただくということを仕事にしてきた私は、習慣で「スパッと明快で分かりやすい」作品を選んでしまいがちだと気がつきました。ご家族からの作品には、直球でずんと心に刺さる言葉がたくさんありました。一方、選考委員の秋山先生は看護師、溝尾先生は医師であり、現場の機微に通じていて、深く作品を読んでいらして、そのご意見は私自身の学びにもなっています。

最優秀賞の「この世界は儚い、だから美しい」(中島圭佑さん、介護福祉士、ケアマネジャー)は、そんなお2人が揃って高い得点をつけた作品です。生きる理由を失っていた入居者を力づけ、再び「生きたい」と思わせた介護が描かれています。介護には技術、知識も必要だが、自分は「生きるを支える手助けをしたい」。それができる介護の仕事は「無限の可能性を秘めている」と情熱的に結んでいます。心を閉ざしていた入居者との交流のきっかけは、最後の望みと聞かされた「世界旅行」。どう実現したかについては、作品を読んでのお楽しみ。

優秀賞の3作品のうち、2作品も現場で働く人からの作品となりました。「諦めなくて良かった」(JONI PALSON さん、介護福祉士)は、経済連携協定(EPA)で来日し、見事、国家試験に合格後も、引き続き現場で働いてくださっていたインドネシアの方の作品です。来日は2013年。来日にいたる動機、イスラム教への偏見から涙したこと、今は介護福祉士としてプライドを持って働いていることなど心の内側を素直に綴っています。

「ああいう人になりぃさん」(杉山和香子さん、看護師)は、地域包括支援センターの現場から。高齢者が本当に笑顔になれるのは、人から何かをしてもらった時ではなく、「自分でなんとかできるようになった時」と学んだと言います。介護保険ができた時に自分のしたかったことはこれと、ケアマネの資格を取り、この世界に飛び込んだ。振り返れば、自分を看護の仕事へと導いた祖母の遺した言葉が、地域ケアの極意でもあったというエピソードです。

ラグビーW杯の日本チームの活躍で流行語にもなった言葉をタイトルにした「ONE TEAM」(佐々木良子さん、宅建士)。事故で全身麻痺になり、15年。シングルマザーで2人の子どもを育てあげた女性です。ようやく一段落と思ったら、次は折り合いのよくなかった母の介護。壮絶な人生、なのに「家族、地域、社会が一つになってこそ乗り越えられる」。一人だけで頑張らなくていいのだというメッセージを届けたいと思いました。

規定では、優秀賞までですが、選考委員特別賞として2作品を選ばせてもらいました。「おばあちゃんありがとう」(飛川希さん、中学生)には、将来への期待を込めて。「ダブルケアの極意」(見澤富子さん 、主婦)は、命の終わりと始まりが一度に振りかかるダブルケアへの問題提起として多くの方に読んでいただければと思います。

今回、新型コロナの感染拡大予防のため、選考委員会は、初のリモート開催となりました。私のもとには、感染予防に必死という現場の声、一方、家族からはターミナルなのに面会もままならないという嘆きも耳に入ってきています。WITHコロナの時代に求められる、新しい日常は、介護のありようも変えていくでしょう。新しい物語がすでに始まっているのかもしれません。生老病死、喜怒哀楽が凝縮された時間である「介護」はエピソードの宝庫です。作文の応募はご家族からのものが多いそうですが、他人とは共有できない瞬間に、仕事だから立ち会える看護・介護職の方は実はとても得難い立ち位置にいるのだと思います。ぜひ、エピソードの発信に挑戦してください。誰に何を伝えたいかを明確にしてから書き始めると案外さらさらと書き進められるのではないかと思います。

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