講評
第8回 看護・介護エピソードコンテスト川名選考委員長

第一次選考を通過した29作品を読みました。テーマとしては、看取りをテーマにした作品が多くみられましたが、介護をポジティブにとらえ楽しく読める作品が増えた印象です。コロナ禍の反動で、そういう作品に目がいくせいもあるのでしょうか。受賞者のうち、3人が学生で、一番若い方は中学生となりましたが、ウケをねらったわけでも、ゲタをはかせたわけでもなく、実力です。届く言葉がありました。選考委員の評価の違いはあまりなく、穏やかな選考委員会となりました。

大賞には「体温が伝わる手紙〜あなたが残した愛のかたち」(中島圭佑さん、介護福祉士、介護支援専門員)を選びました。人生の最後に文字を書けるようになりたいと願った高齢者とそれを応援した介護職員とのエピソード。残された一通の手紙、つづられたピュアな言葉に射抜かれます。私は「ウルっ」と、溝尾委員は「大泣きした」そうです。中島さんは、今回が二度目の大賞受賞となります。是非が議論になりましたが、再投稿、再受賞を禁止する規定が設けられていないこと、エピソードの力が圧倒的なことから、今回は考慮しないこととしました。コロナ禍で家族との面接もままならない中で旅立っていく人に対し、多くの現場で精一杯職員が向き合った。その一つの記録としても世の中に送り出したい作品です。

優秀賞「祖母の応援団」(犬塚千尋さん、中学生)は、「認知症になっても穏やかで明るい祖父とおかしな出来事を泣き笑いしながら介護する祖母」とそれをリスペクトし、何かできることはないかと考える著者の関係性にほのぼのとした気分にさせられる作品でした。認知症介護は、発想の転換と工夫の積み重ねですね。「中学生でもできる介護の方法があることが伝わる」(秋山委員)という評価もありました。

優秀賞「『生きる』ことと、私の誓い」(栗原 佑果さん、大学生)は、初めての看護実習での学びをまとめた作品。普遍的なだけに陳腐になりがちなテーマですが、自分の体験に重ね合わせ素直にまとめられていて、心に沁みました。「カーテンの隙間から無力な自分を呪う少女」から、今を生きる人を支える看護師へと羽化する場面に立ち会ったような気持ちになりました。今の気持ちを忘れずに。

優秀賞「トイレが世界を変える!?」(田中良樹さん、介護福祉士)は、デイサービスで絶対トイレに行かない認知症の女性の介護から始まったエピソード。なぜかというと、家のトイレが和式で、洋式だとトイレと分からなかったから。近くの小学校に和式トイレを借りにいくようになり、そこから小学生との交流が始まり、その中の一人は介護職になり、今は同僚というから何がご縁になるか分かりませんね。お年寄りが生きた昔の時代と現代のギャップが描かれていること、介護からの地域づくりとして価値のあるエピソードとして秋山委員の特に推薦がありました。

受賞は逃しましたが、「一握りの罪悪感」(奥谷富美子さん、会社員)を選考委員特別賞として推薦させてもらいました。独身30代の時に親の介護が始まり、父母を見送るまで足掛け15年。罪悪感を感じつつ、プロの手を借り、胃ろうを付け病院で亡くなった父の死に学び、母親は家庭の延長のようなホームホスピスで見送った。横で本を読んでいた著者が気づかないほどの自然死。仕事も続けたいし、親も放っておけない。同世代の「やり切った」介護に共感しました。

同じく選考委員特別賞になった「孫の手」(山本彩世さん、高校生)。介護が始まって祖父と同居、おじいちゃんとしてではなく、「人」としての部分に初めて触れることになった孫目線でのエピソード。昔話に花をさかせながら、「孫の手」で膝をさすってもらう暮らし。選考委員はこのエピソードのもつメッセージ性とともに、充実した作品内容をより高く評価しました。幸せは、日常が日常としてあることだと気づかされた今の時代に価値を増す作品です。

エピソードを職員さんが綴る時に、登場人物の呼称をどうするかまず悩むのではないでしょうか。一次選考通過作品をそういう視点でしらべてみました。大賞の中島さんは、今回も「あなた」と呼びかけるスタイル。類似の形式では、「彼女」と3人称を使う方もいましたが、どちらも難易度は高め。属性で、「患者さん」、グループホームの入居者を「認知症のおじいちゃん」と呼んだり、「Aさん」と記号にしたり、仮名をつくってリアリティを持たせている方もいます。介護業界では、「ご利用者様」「ご入居者様」といった丁寧な言い回しが当たり前になっていますが、作品の中ではみられませんでした。「様付け」は営業トークではよくても、現場の肌感覚にはなじまないからなのでしょうね。しかし、「ご家族様」「娘様」「お孫様」はありました。遠慮があるのでしょうか。現場の雰囲気だったり、作品による世界観が違うので、マッチしているかが問題で、どれがベストという答えはありませんが、現場での関係性や気配りを読み解く手がかりとして注目してきました。個人的な感覚ですが、職場の決まりだからととってつけたように「様」をつける方は減ってきていて、それだけ作品が厚みを増してきているように感じています。

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